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121.すべては子どもの情緒

今朝、コンタクトレンズを装着している時に

ふっと

思い出した生徒の話です

 

Aちゃんとはまだ彼女が黄色い帽子をかぶっている頃出会いました

別の子にくっついて、たまたま、偶然出会ったのですが、

色々あって、わたしが勉強を見ることになりました

まだ

どんぐりを始める前のこと

わたしも独身のお姉さんだった頃です

 

1年生なのに、あまり喋ることができない、と

親御さんが悩んでいらっしゃいました

確かに、会話が成り立たない

授業の半分くらいは雑談にあてて様子を見ましたが、

いっこうにAちゃんの表現力に進化はありません

いつもわたしのことを

ちょっとだけ微笑んで見つめているので、

来るのを嫌がっている風ではありませんでした

 

喋ってもなんというか、言葉が続かず、箇条書きのような

書いてもただ「文字」を書いているだけで、

言葉として認識していないようでした

だから、国語だけでなく算数も、他の科目も、お手上げだったのです

 

注意深くAちゃんの環境を観察したり、様子を聞いたりしていきました

親御さんは最初は面談に見えて、悩みを話してくれたものの、

送迎はほとんどおばあちゃんだったので、

入塾後はなかなかお会いする機会がありませんでした

だから、わたしはノートを作って、授業中のAちゃんの様子を毎回細かに報告し、

親御さんからもなんらかのメッセージをいただけるチャンスを作りました

(どんぐり学舎でも昨年度まで任意で続けていた「連絡ノート」です)

 

おばあちゃんに手をひかれて、

歩いて帰っていくAちゃんの背中を見ながら、

なんとか変えてあげられたら…

若くてがむしゃらで無知には違いなかったわたしですが、

今と同じで、Aちゃん自身になにか問題があるのではなく、

親御さんがなにか抱えているのではないか、

家族の環境になにか改善できる部分があるのではないか、と

思っていました

 

まず最初に気づいたことは、「テレビ」でした

 

たどたどしい会話から、

Aちゃんがかなりの長時間テレビを見ていることに気づきました

もしかして、食事中も?

少しずつ、聞いてみると、そのような環境がわかってきました

連絡帳に、

「食事中、もし、テレビがついているとしたら、少しの間、消してみませんか」

と書いてみました

素直なお母さん(といっても、きっと今の私より若いでしょうね!)は、

「わかりました!」

と返事を書いてくれて、すぐに実行に移したようでした

しばらくして、Aちゃんの表情が変わってきました

少しだけ微笑む程度だった表情は、

くるくると変わる、子どもらしいものになってきました

 

テストの成績などはあまり気にしていませんでしたが、

少しずつ、「ああ、問題文を少しだけ理解できるようになってきたかな」と

感じられるような答案を書くようになってきました

 

こんなに変わるものかね

その間、数週間ですがびっくりした思い出があります

食事中のテレビを消しただけ?

不思議な実験を見たようでした

 

その後、お母さんの方から連絡帳にメッセージがありました

 

「こんなにAが変わるとは思わず、驚いて、とにかく一緒にいる時間は

テレビを消して過ごしています。すると、Aは自分から色々な話をしてくるように

なりました。これまで、学校はどう?お友達はどう?なにして遊んだの?などと

いくら聞いてもうまく話せず、自分から話してくれることなどなかったのに、

今は自分から休むことなく話してくるのです」

 

わたしも嬉しくて、よかったですね!と返事を書きました

 

Aちゃんはみるみる変化してきました

 

最終的には、塾内順位(進学塾勤務時代のエピソードでして)が

最下位だったAちゃん、見事に1位になっていました

 

出会ったころ、ちょっとぽーっとしていて、こちらの言っている言葉を理解しているのかどうか

疑わしかったAちゃんが

明らかに、誰が見ても利発なお嬢さんに変貌を遂げていました

 

ある時、

いつも来るはずのおばあちゃんのかわりに、お母さんが迎えに来ました

顔を合わせるのは久々でした

なんだか入塾当初より明るい、ふっきれたような表情でした

 

「実は、仕事を減らしているところなんです」

 

おばあちゃんに塾の送迎も、下のお子さんの保育園の送迎も全て任せるほど

多忙に働いていたお母さんでした

そうですか!とびっくりしながらも、

ものすごく嬉しそうに、右手にお母さんの手、左手にわたしの手を握って

交互にふたりを見上げているAちゃんの気持ちが

ちいさな手を通じて伝わってきて、わたしも内心小躍りしていました

…大人の事情なんか考えもせず、ただただ、子どもの気持ちを感じたのです

 

その後、

またお母さんから連絡帳にメッセージがありました

「下の子のこれからのこと、Aの今、この瞬間のことを考えると、

わたしたち両親が一番なにを優先すべきかわかってきました

とりあえず、しばらくの間、わたしは仕事を休ませてもらうことにしました

これからは学校から帰ってきたAを、おかえり、って迎えてあげられます」

 

わお!!

これまたすごい決断を!

そして、なんと理解のある職場なのでしょう

それとも…

もしかしたら、いったん退職なさったのかもしれません

そこまでの事情は聞いていません

いずれにせよ、苦渋の決断だったはずです

でも、

Aちゃんの両親は、

がくっと減る収入も、ご自分のキャリアも、

優先順位の2位以下に下げたのです

Aちゃんと、下のお子さんの子育て期に、

優先すべきことをじっくり考えて、行動に移したのです

 

若かったわたしも、さすがに、この夫婦の決断には

驚かされ、今でも忘れられません

余談ですが

その後のAちゃんは、というと

成績は優秀なまま、最後まで頑張ったようです

県内トップ校に入学したという話は聞いています

 

さて

こう書くとあっさりと全てが順調にとんとん拍子に進んだように錯覚しますが、

わたしが書いた上記のAちゃんとの時間は少なくとも2年間のお話です

出会ったのが1年生になったばかりの頃、

わたしが退職するためにお別れしたのは3年生の頃で、

テレビを消して変わったとか、

親御さんが仕事をやめて変わったとか、

そういう変化も、一瞬で起こったことではありません

親御さんは辛抱しただろうし、当時のわたしも、粘り強く待ちました

 

ゲームをやめたらすぐに思考力がつくかとか

テレビをやめたらすぐに…とか

そう簡単にはいかないということをお伝えしたいのもありますが、

Aちゃんのことを思い出すたびに考えるのは、

結局、テレビが悪かったんじゃない、

仕事が忙しかったことが悪かったんじゃない、

Aちゃんは、テレビを消したことにより、

また、親御さんが時間を作ってくれたことにより

親が自分のことだけを見つめてくれていることを実感し、

情緒が安定したのだろう、ということです

 

それは、

毎週会って、その表情を見ていてわかったことです

「安定してる」

それは、子どもの表情から最もよくわかることです

 

テレビを消すのはたぶん簡単でしょうけれど

仕事をどうこうするのは難しいことでしょう

でも、

子どもとの暮らしの中で、一番優先すべきことはなんなのか

永遠に続くわけではない、最も重要な時期に、

親として子どもの生活をどう守ってやれるのか

ひとりひとり抱えるケースが違いますから、

ひとりひとりがもっと、それぞれのお子さんのために

考えてくれたら…と思うのです

 

子どもにはわかるのです

テレビをつけておけば楽だからついていることも

ゲームを与えておけば楽だから買い与えられたことも

…もしかしたら、親が自分の欲求を満たすために、

自分のストレスを解消するために、

自分がのめり込んでしまっていることも

キャリアのために仕事をやめたくないことも

生活水準を下げられないから仕事を減らせないことも

…もしかしたら、親が自分の趣味にお金をかけたくて

自分のために使いたくて収入を減らしたくないことも

そうじゃなくて、

「これは本当に素晴らしいこと!ぜひ、わが子どものために!」

と、親が心底思って与えられたものなら、

その思いは伝わって、テレビやゲームすら愛溢れたものとなるでしょう

 

子どもを産んだばかりなのに、復職のことばかり話している知人がいます

そういう女性(男性も)を支える動きも、あるようです

0歳から預かる保育園で、素晴らしい保育を実践しているところも知っています

親といるよりまし!と豪語している関係者もいます

この問題は深く、難しく、組織から脱落したわたしのような者が

産休も育休もなかったけど、

自宅が職場である楽さも苦労も知っているけど、

…口を挟むべき問題じゃないことはわかっています

でも

わたしには昔から、変わらず、

大人の事情なんかじゃなく、子どもから伝わってくるものがあり

それは

お母さん、もっとそばにいてよ

お父さん、もっと興味をもってよ

わたしが小さい間だけでいいから

テレビじゃなくて、お母さんの声がいいよ

ゲームじゃなくて、お父さんと遊びたいよ

スマホじゃなくて、こっちを見てよ

お金持ちじゃなくてもいいよ

すごいとこに旅行にいけなくてもいいよ

車がおんぼろでもいいよ

それよりもっと、そばにいてよ

 

仕事を即刻やめるべき!と言いたいわけではなく

仕事と子育ての両立にはものすごく努力と工夫が要る、

でも、

たとえ短い時間でも、

子どもの上のような欲求は、実は充分満たしてやれるはず

逆に言えば、子どもの気持ちを無視してまで仕事を続けなければならないという場合、

子どもの気持ちのやり場は?そして、子どもとは?家族とは?

問題提起したいのです

 

コンタクトレンズを装着しながらAちゃんを思い出したのは

一番思い出に残っている彼女との会話

 

ある時、目が痛くて授業中なんども鏡を見に行っていました

当時まだ、会話がままならなかったAちゃんに、

それでも事情を一方的に説明しながら何度か席を外したのです

結局、ソフトコンタクトレンズが裏表逆に入っていたことに気づき、

返事もしないAちゃん相手に「こういう訳だったよ」と説明して落ち着いたのでした

 

そして退職間際、同じ事が起こりました

前回の時から2年近くたっていたでしょうか

わたしは、Aちゃんの前でまた目をこすっていました

すると、Aちゃんは「先生、大丈夫?」

「うん、大丈夫。なんだか目が痛いんだ」

…わたしのことを気遣って、「大丈夫?」なんて聞くことはかつてあり得ませんでした

その瞬間もそう思っていたわたしです

Aちゃん、変わったなあ!と

すると、次にAちゃんは

「もしかして、また、コンタクトレンズがさかさまなんじゃない?」と言ったのです

わたし自身も忘れていたようなことでした

でも

よみがえりました

なにを話しても理解していないようだったAちゃん

ただちょっとだけ微笑んで

黙って見つめているだけだったあの頃のAちゃん

わたしが一方的に説明していたことを、

ちゃんと理解していたんだ

そして、覚えていてくれた

こんなに、時間がたっているのに

 

忘れられないAちゃんの進化です

子どもはみんな、Aちゃんと同じ

Aちゃんが特別だったわけでは、ないのです

 

最近、強く思うのです

全ては、子どもの情緒である、と

なにを与えるか、与えないかじゃない

なにをさせるか、させないかじゃない

いくらいいことを取り入れても、

いくら気をつけていいものを食べさせても、

いくらどんぐり的な子育てを教科書通りに実践しようとしても、

どこかに無理があると子どもには伝わってしまう

いいと言われたから、ダメと言われたから、

それと、周囲からの目

子どものためじゃなく、自分のために…

まず、自分ありき、の大人が増えて、

子どもの情緒は不安定になってきている気がしてなりません

 

素晴らしいことができなくたっていい、

教科書通りじゃなくたっていい、

自分と、わが子とが、心から満たされる暮らしを心がけて、

毎日を、子どもにとって重要な、せめて9歳までの時期を、

丁寧に、かけがえのない時間として、

他のどんなことより優先して考えることができたら、

その先子どもはぐんと伸びて、

自立も早く、

子育てはすぱっと卒業を迎え、

あとは羽ばたくわが子を楽しみに見守るのみ

 

どうか、今しかできないことから、目を背けないでください

子どもたちはずっと、見ているのです

見つめ返してくれることを期待しながら

《2015年 9月10日投稿》

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